実験リスト
ネーム模写
なぜ研究するか
マンガが上手くないのだ。
上手くない以上、売れる可能性はグッと少ない。仮に売れたとしても、再現性がない。
再現ができないなら、継続して水準に達したものが作れない。
マンガの報酬が得られない。
マンガ以外で稼いでマンガを作らねばならない。
すると、マンガから遠ざかり、ますますマンガが上手くならない。
マンガが上達し、マンガのことだけをし続けるために、いま技術としてのマンガ制作を考える必要がある。
だから、マンガを研究する。
何を研究するか
過去の大家の作品の、話づくりについて研究する。
ネタや企画、絵、エモーションに関しても大変重要だが、それらは別の機会に考える。
このページでは、ただただ話の作り方を学ぶ。
具体的な作家は手塚治虫と藤子・F・不二夫。
この二人以外も、上手い作家、面白い作家はたくさんいるので、適宜扱いたいと思うが、少なくともこの二名の作品は、ページあたりのテクニックの量、多彩さにおいて頭抜けており、研究に適している。
どうやって研究するか
マンガ制作の用語で、頭で組み立てた話を原稿に描いていく前に、一度マンガの形式でコマを割って、ラフに作ったストーリーボードのことを、「ネーム」という。
任意の教材となる作品を、このネームの形に落とし込む。
いわば、完成の前の段階に「還元」する。
それにより、制作の経緯を追跡できる。
いくつも存在するストーリーの分岐や、絵の構図の事情は、作ってみないと分からない。
作ってみると、意外なほど膨大な量の発見がある。
この訓練により、マンガが上手くなることを期待する。
作品の選択は任意だが、長編よりも、よりテクニックが詰めこまれている、短編エピソードが望ましい。
(参考)物語構成の用語について
(※ 詳しい用語や概念は、シド・フィールドの『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』を参照)
各エピソードは、基本的に序盤、中盤、終盤の三幕構成モデルを使い、分析する。
ただしこれは透視図法を使った遠近法と同じように、目の前の事象をどう解釈するか、という目安であり、一つのフレームワークに過ぎない。
別のフレームワークに、起承転結モデルがある。個人的に、物語にこのモデルを適用することはあまり論理性を感じないので、本稿では採用しない。
序盤、中盤、終盤にはそれぞれ以下の役割があり、タイムフレームで言うと、だいたい1:2:1の配分となる。
ただしこれは、シド・フィールドが映像を作る際のシナリオに対して当てた目安であり、現代のマンガの場合、終盤にペースが上がる傾向が強いため、上の配分にはなりにくい。
序盤
序盤のキーワード:
- インサイディング・イベント
- 世界観(設定)
- 状況
- 人物(欲望)
- プロットポイント1
序盤の役割:
読者を物語に引き込むイベント(インサイディング・イベント)を発生させ、その余韻が残る中、物語の世界観の設定、現在置かれている状況、人物を紹介する。大抵の場合は、人物が何かにこだわり、それが原因で、それまでの状況には戻れない、取り返しのつかないイベント(プロットポイント1)が発生し、中盤に移る。
中盤
中盤のキーワード:
- 応用された世界
- 抑圧と葛藤
- ミッドポイント
- プロットポイント2
中盤の役割:
PP1で発生した、「取り返しのつかない事態」が発展する。
新世界にワープしたり、殺人を犯して警察に追われたり、バリエーションは無数にある。
注意点としては、「新しい世界での常識では、何が起こるのか」という、応用を示す必要があることだ。
また、PP1は、主人公のこだわり(欲望)によって発生することが多いが、中盤の「応用された世界」では、主人公の欲望は、周囲の環境から抑圧される。
これにより、主人公は葛藤する。
抑圧は、作者が社会や個人的事情など、世の中に問題として感じているものを投影すると良い。それへの反発として、主人公が「欲望」を貫くことで、主人公=欲望=テーマが一貫性を持つからだ。
中盤は他のパートより長く、だれやすい。物語のちょうど中ほどでイベントを起こし(ミッドポイント)、話を強化・加速させる。
ミッドポイントは、物語全体の中で一番大きなイベントとなることがあるが、大局的にみると、話の方向性を左右しないし、するべきではない。それゆえ、プロットポイント1、2よりやや優先順位が低い。
中盤の最後に、主人公に決断を迫る最後の選択肢が提示され(プロットポイント2)、終盤へ。
終盤
終盤のキーワード:
- 決断とアクション
- エンディング
終盤の役割:
PP2で迫られた選択肢を決断し、行動に移す。
具体的なアクションが必要。
PP2の段階で頭でっかちになり、ここで何かしらのアクションが入らないネームは、多くの場合良い結果にならない。
それ以外は、グッドEDかバッドEDか、勝利か敗北か、目的達成か頓挫か、物語の構成上では、あまり重要ではない。逆に言うと、ここをどう破壊しようが、物語の構成にはほぼ影響しないので、作者の主義主張を存分に入れやすい、唯一の箇所ともいえる。